以前、山口県光市の室積地区を訪れたとき、民家の軒先にこの木札が掲げられているのを見つけました。「商業報國」という言葉には初めて接しましたが、戦時体制の産物だろうという推測はできます。よく残っていたものです。旧字体の「國」、そして右書きの「山口縣」がいい感じです。
調べたら、昭和13(1938)年に成立した国家総動員法の元において戦時体制が整えられていく中で商業報国運動が起こり昭和14年に日本商業報国隊が結成された、と文献にあるので、その関係の表示と思われます。商業報国隊は国家にご奉公する商業者として「正しい商売」(闇取引や売り惜しみはしない)を呼びかけていたようです。
戦後、教科書の旧体制にまつわる部分を黒塗りにした話は有名ですが、「商業報國店」の札は排斥や塗りつぶしの対象にならなかったのですね。「正しい商売」の主張は戦後の倫理観とも矛盾しないため、消し去る必要は無かったのかもしれません。
[文献]
石原武政「第二次大戦下の小売業整備」、『経営研究』69巻1号(平30)、43-90頁
(写真帖17 終わり)
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