観林庵写真帖 10 
令和2(2020)年2月6日作成  令和2年12月2日最終更新
 

眼前の共時性
香川県高松市  平成13(2001)年12月28日

 もう20年近く前のことですが、年末に四国を旅行したときケーブルカー(屋島登山鉄道)で屋島に登りました。山上にある四国霊場第84番札所の屋島寺に参拝してきたと言えばわかりやすいのですけれど、本当はケーブルカーに乗ることが主目的で、屋島寺は「ついで」です。同行の家人には一応参拝を口実にしたものの、意図はすぐにバレてしまいました。

 最寄りの琴電屋島駅から歩いたケーブルカー乗り場までの道は、あまり観光地らしくない市街路でした。麓まで行くと多少それらしい雰囲気はあったものの、観光客の姿はありませんでした。
 ケーブルカーは貸切状態でした。まともな人は師走の28日に行楽地などへ出かけないかと思いましたが、それにしてもすいています。
 山上駅にもひと気は無く、一帯は麓に輪をかけて寂れた感じになっていました。利用が少なくて経営が振るわないからか、駅舎は古いままでした。この写真の中央に写っている白い建物が屋島山上駅です。懐古趣味の数寄者が喜びそうなたたずまいですね。
 往路でこの駅を利用しているからわかりますが、知らなければ廃墟かと疑ってしまいます。山上駅と屋島寺が離れていて結構な距離を歩く必要があるため、みなさん自動車で登ってしまうようです。
 行く末は大丈夫かなと心配していたら、屋島登山鉄道は平成16(2004)年に経営が行き詰まり、残念ながら廃止されてしまいました。

 前置きが長くなりました。本題はケーブルカー廃止問題ではありません。駅前に2匹の犬がいます。2匹とも同じ姿勢で体を駅舎の方に向けたまま私の方を振り向いています。
 私は駅舎から出てこちらに歩いてきたわけですが、吠えたり追いかけてきたりするでもないので気にせず通り過ぎて振り返ったら、2匹がこうしていたのです。
 合成写真のつまらぬ悪戯と思われるかもしれません。でもホンモノなのですよ、これ。

 2匹は双子なのでしょうね。毛並みもよく似ています。尻尾の長さが微妙に違うかな。そして、静止画だから伝わりませんが、動きもほぼ同期しているのです。心理学者のユングが唱えた共時性という現象はこれか、と神経が逆立ちました。
 どうやって交信しているのか、実に不思議でした。精神感応(テレパシー)は本当にあると考えざるを得ません。もしかして一方の犬を捕まえてなぐったら、もう一方がキャインと鳴くのか、などと馬鹿馬鹿しい疑問がわきました。が、動物虐待と騒がれるのも困るし、それ以前に犬に噛みつかれるのは確実なので、写真を撮っただけでその場を離れました。

 屋島寺に詣でて山上駅に帰ってきたら、犬たちは居ませんでした。気になりましたが、探すのはやめました。ひょっとしてお大師様が遣わしてくれた出迎えだったかも、と少しだけ考えたからです。だとしたら実にありがたいことです。そのように考えられること自体が参拝の御利益でしょう。
 そう言えば、屋島寺には相似形の狸の夫婦石像が立っていましたけど、何か関係があるかもしれません。

 ともかくも、さすが伝統の霊場らしい不思議感溢れる体験でした。

(写真帖10 終わり)

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