観林庵写真帖 3 
令和元(2019)年10月12日作成  令和元年11月9日最終更新
 

夕景の南円堂
奈良・興福寺  平成19(2007)年3月30日

 奈良が好きで、よく訪れます。私のお気に入りの仏様は、東大寺三月堂の不空羂索観音立像です。学生時代から幾度となくお参りしています。

 せんとくんが若干の雑音を伴って登場したあたりから人出が増えた気がしますが、私が大学生だった昭和の終わり頃など夏休み期間でも三月堂まで詣でる拝観者は少なく、堂内で仏様を独占するのにさほど苦労しませんでした。ご本尊の不空羂索観音様は祈りを力強く体現しているので、相対して座していると、衆生救済の意思が堂内に響き渡っているかのごとく感じます。三月堂と二月堂だけ心静かに参拝し、二月堂横の茶店でわらび餅を食べて、大仏殿に立ち寄らずに帰るという罰当たりなこともしました。

 奈良公園にある国立博物館の仏像館も、独特の重みが私を惹きつけます。文化財の展示に過ぎないのですが、仏性の残響が半端ではありません。粗末にしたら恐ろしいことになりそうな威力が漂っています。

 東大寺や国立博物館からの帰りには、興福寺を抜けて商店街へ向かうのが習慣になっています。市街から離れたお寺に詣でたときでも、帰りに依水園へ寄ったりして、結局興福寺を通ることになります。

 日暮れ近くに興福寺境内へ入り、夕空にそびえる五重塔を仰ぎ見ながら西へ進めば、落日を背にした南円堂の特徴的な姿が近づいてきます。この情景を、穏やかな一日の最後を飾るものとして心に留め、満ち足りた気持ちで家路に就くのです。興福寺南円堂のご本尊が東大寺三月堂と同じ不空羂索観音様と知ったとき、「縁」という言葉を意識しました。導かれているのかな、と思わないでもありません。

 さて、今日もぶと饅頭を買って帰りますか。

(写真帖3 終わり)
 
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