5.6 貨車の移動に使われる設備・機械
平成11(1999)年10月18日開設 令和6(2024)年2月11日最終更新
(1) 遷車台(貨車用)
 遷車台は、並行した複数の線路間で相互に車両を転線させるための設備である。トラバーサ(traverser)ともいう。矩形坑の中に敷設された軌条の上を可動桁が平行移動する構造になっている【文献561】。

 鉄道工場などには機関車や電車を載せる大型の遷車台があるが、ここに示すのは駅の貨物側線に設置された2軸貨車入れ換え用の小型のものである。遷車台の使用により、荷役線(貨物ホームに面する線)での貨車の整理が容易になる。


紀勢本線阿漕 昭和55(1980)年2月10日  [現存せず]
***  謝  辞  ***
三重県在住の井上様および藤田様より情報をいただき、このトラバーサの設置駅が阿漕であることを確認することができました。ありがとうございました。(平成8年5月19日)

鹿児島本線久留米 平成14(2002)年10月5日  [現存せず]
(11・12番線間に設置、桁長6m、手押し)
※許可を得て駅職員立ち会いの下で撮影;桁長は実測値

[参考文献]
【561】堀越一三『鉄道工学』、共立出版(昭32)、p.87


(2) 転車台(貨車用)
 ターンテーブル(turntable)ともいう。円形坑の中を車輌をのせた鉄桁が回転する構造で、車輌の転向に使用する。貨車用転車台は主線路に対し直角(または直角に近い角度)に配置された側線への転線に用いる。
 貨車用転車台には、機関車用転車台(engine turntable)と同じ一線式の小型のものと、貨車用だけにみられる直角二線式とがある(トロッコなどに類似形態あり)。3本の線路が60度ずつの角度をもって交差する星形転車台も文献に見られるが、日本国内に存在したかどうかは明らかでない【文献562】。

 鉄道開業後間もないころの旧・新橋駅および旧・横浜駅では、並行する複数の線路(荷役線・貨車留置線?)にそれぞれ相互に隣接するように転車台を設置してあった【文献563】。これらは隣接線相互の貨車移動に使用したものと推測される。この機能は後に遷車台が担うことになる。

 国鉄駅に設置されていた貨車用転車台はすでに全廃されているが、痕跡は若干残っている。特に旧・武豊港駅の転車台は普通鉄道用として唯一残る直角二線式ということで産業遺産として評価されており、武豊町により修復され保存・公開されている【文献564】【文献565】。

(左)直角二線式転車台の残骸  愛知県武豊町・武豊港駅跡地 平成11年11月7日 [修復前]
(中左)貨車用転車台の円形坑跡と倉庫前への接続線路  名古屋市・笹島駅跡地 平成12年10月10日
(中右)石材工場敷地内の転車台円形坑跡  岐阜県内 平成14年6月
(右)製材工場トロッコ用直角二線式転車台  三重県内 平成14年6月
[参考文献]
【562】 大日本百科辞書編輯部『工業大辞書』、同文館(明44)
【563】 奈良一郎「転車台120年の記録(上)」、『東骨技報』No.41(平8)、pp.67-74
【564】 「転車台保存ターン」、中日新聞(夕刊)、平12.10.25
【565】 夏目勝之「武豊港駅貨車用転車台の設置目的に関する一考察」、『産業考古学会2004年度全国大会研究発表講演論文集』(平16.11.14)、pp.25-28


(3) キャプスタン
 巻胴を回転させて鋼索を巻き上げることにより貨車等を牽引し移動させる装置で、巻胴が鉛直に取り付けられた特殊な巻き上げ機。鋼索は巻胴に数回巻くだけであり、作業者側の鋼索を緩めることによって巻胴を等速回転させたまま牽引力を減ずることができる。牽引角度を調整するために案内滑車を併用する場合もある。鉄道用の他、船舶等でも用いられる。
 車両牽引力は牽引重量1tあたり10kgfとして計算する(平坦線、曲線半径大、状況良好な線路の場合)【文献566】。すなわち牽引能力3tfのキャプスタンは総重量300tの車両を牽引できることになる。

キャプスタン (これは港湾用に使用されたものです)
福岡県大牟田市三池港 平成13(2001)年5月19日
[関連情報(関係者証言)]
 国鉄上砂川駅では石炭積み込み線で鋼索牽引を実施していた。石炭ポケットから貨車への積み込みが終了するごとに順次鋼索で貨車を奥へ引く。終了後はやはり鋼索牽引で手前へ引き出す。鋼索は貨車の連結器に固定したという。昭和40年代の話。
(証言者=当時上砂川駅に勤務していた日本貨物鉄道職員 : 聞き取り=平成9年9月3日)
[参考文献]
【566】 松田和三『荷役機械便覧』、産業図書(昭31)


(4) 簡易貨車移動機
 貨車に接続して移動させる機械で、内燃機関を動力とする。中小駅の構内または専用線で用いる。牽引力は100〜150t程度。【文献567】 【文献568】
(左)アントANT20型(特徴から推定)  飯田線上片桐 平成8(1996)年3月14日
(右)アントANT20W型  名古屋臨海鉄道汐見町 平成12(2000)年6月10日
[参考文献]
【567】営業設備研究会『国鉄営業設備ハンドブック』、交通日本社(昭43)、p149
【568】アント工業(株)『アント20車両移動機』(製品型録)


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